Top » 各期日について » 判決の言い渡し(2009年10月 1日)
判決の要旨
主 文
1 景観利益を有すると認められない原告らの各訴えをいずれも却下する。
2 広島県知事は,広島県及び福山市に対し,本件公有水面の埋立てを免許する処分をしてはならない。
理 由
第1 本案前の争点に関する判断
1 慣習排水権に基づく訴え
慣習排水権を主張する原告らのうち,本件公有水面に長期間にわたり反復継続して排水し,かつ,それが客観的に表現されたもので社会的承認が得られていると認められる者は,慣習排水権者に当たり,行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)37条の4第3項所定の法律上の利益を有するが,本件埋立免許がなされても,同条第1項本文所定の重大な損害を生ずるおそれがあるとはいえないから,同権利を根拠に本件埋立免許の差止めを求めることはできない。
2 漁業を営む権利に基づく訴え
鞆の浦漁協は,本件公有水面について漁業権を放棄する旨の総会決議を行ったから,原告らのうち鞆の浦漁協の組合員又は准組合員である者は,本件公有水面について漁業を営む権利を失った。したがって,同原告らは,漁業を営む権利を根拠に本件埋立免許の差止めを求めることはできない。
3 景観利益に基づく訴え
鞆の景観は,美しい景観であるだけでなく,歴史的,文化的価値を有するものであり,このような鞆の景観に近接する地域内に居住し,その恵沢を日常的に享受している者の景観利益は,私法上の法律関係において,法律上保護に値するものである。そして,公有水面埋立法(以下 「公水法」という。)及びその関連法規の規定のほか,上記の景観利益の性質に照らせば,公水法及びその関連法規は,上記の法的保護に値する,鞆の景観を享受する利益をも個別的利益として保護する趣旨を含むものと解せられる。また,鞆町に居住している者は,鞆の景観による恵沢を日常的に享受している者であると推認されるから,行訴法37条の4第3項所定の法律上の利益を有する者に当たる。さらに,本件埋立免許がなされれば,上記景観利益について重大な損害を生ずるおそれがあると認められ,これを避けるため他に適当な方法があるともいえない。したがって,上記景観利益を有する者の訴えは適法である。
第2 本案の争点に関する判断
1 本件埋立及びこれに伴う架橋を含む本件事業が鞆の景観に及ぼす影響並びに広島県知事の裁量権の範囲
広島県及び福山市(以下「事業者ら」という。)が予定している対策は鞆の景観侵害を補てんするものとはなり得ない。鞆の景観の価値は,私法上保護されるべき利益であるだけでなく,瀬戸内海における美的景観を構成するものとして,また,文化的,歴史的価値を有する景観として,いわば国民の財産ともいうべき公益である。しかも,本件事業が完成した後にこれを復元することはまず不可能となる性質のものである。これらの点にかんがみれば,本件埋立及びこれに伴う架橋を含む本件事業が鞆の景観に及ぼす影響は,決して軽視できない重大なものであり,瀬戸内法等が公益として保護しようとしている景観を侵害するものといえるから,これについての政策判断は慎重になされるべきであり,その拠り所とした調査及び検討が不十分なものであったり,その判断内容が不合理なものである場合には,本件埋立免許は,合理性を欠くものとして,行訴法37条の4第5項にいう裁量権の範囲を超えた場合に当たるというべきである。
2 本件埋立及びこれに伴う架橋を含む本件事業の必要性及び公共性
(1) 道路整備効果
交通の速度や安全性等の見地からみて,鞆町の街区の主要な道路は通常の街区の道路に比してかなり劣悪な交通状況にあるといえるから,その改善の必要性は認められ,その公共性も高いものがあるといえる。
しかし,福山コンサルタントの調査は不十分なものといわざるを得ない。また,拡幅等工事未了区間の交通混雑解消という効果の点で,埋立架橋案の方が優れているとはいえるけれども,山側トンネル案であっても,混雑状態は相当程度解消され,交通の利便性及び安全性を確保できる可能性も多分にあり,上記優位性の程度が鞆の景観の保全を犠牲にしてまでもしなければならないものであるかについては,大きな疑問が残り,上記の各点について,さらなる調査,検討が必要である。以上の点を考慮すると,広島県知事が福山コンサルタントの推計結果のみに依拠して埋立架橋案の道路整備効果を判断することは,合理性を欠くものといわざるを得ない。
(2) 駐車場の整備
鞆は,観光客数からみて,駐車場が不足しているといえ,これを解消するための施策を講じることの必要性は認められ,その公共性もあるといえる。
しかし,事業者らの計画する台数を収容するための用地を,まとめて,しかもそれ自体が観光の対象である鞆地区中心部に確保しなければならない必然性があるともいい難く,何箇所かに分けて駐車場を整備することも検討に値するものといえるのに,このような施策の検討,実行がなされていないにもかかわらず,広島県知事が,駐車場の確保を理由に,本件埋立免許をすることは不合理であるといわざるを得ない。また,事業者らの計算した数値が駐車場として恒常的に必要な台数なのかについては,疑問が残るし,道路整備効果の面で本件埋立の必要性は疑わしく,道路整備という行政目的を考慮しなかった場合に,なお駐車場の整備のために本件埋立を行うとの判断をすることが合理的といえるかどうかは,鞆の景観の価値にかんがみ,疑問が残る。上述べた点を考慮すれば,広島県知事が,駐車場の確保を理由に本件埋立免許をすることは,不合理であるといわざるを得ない。
(3) 小型船だまりの整備
本件事業において建設が予定されている施設が建設され,それが現実に使用されたならば,漁業者の漁業活動は格段に効率的で安全なものになるということができ,公共性があるとはいえる。
しかし,水深不足の解消のための施策が検討されていないこと,水産業者の占拠状態に対する対処や既存のスペースの有効活用の検討といった方策が採られていないことからすれば,小型船だまりの整備のために本件埋立を行う必要性に関する事業者らの調査,検討は,不十分なものといわざるを得ない。また,埋立後の用地や施設の管理について事業者らによる検討が行われたかどうかも明らかでないことからすると,事業者らは,当初から埋立てを行うことを前提に小型船だまりの整備方法を検討していたと考えざるを得ない。以上の点にかんがみれば,広島県知事が,小型船だまりの整備の必要性を理由として本件埋立免許をすることは,不合理な判断といわざるを得ない。
(4) フェリーふ頭
フェリーの運航は走島の島民の生活環境や産業の向上に資するものといえる。
しかし,行政当局としては,まず,湾の埋立によらないで上記フェリーふ頭を整備する方策について調査,検討すべきであるといえるが,事業者らがこのような調査,検討したことをうかがわせる証拠はなく,事業者らのした調査,検討は不十分である。また,道路整備効果の点で本件埋立の必要性は疑わしく,道路整備という行政目的を考慮しなかった場合に,なおフェリーふ頭の整備のためだけに湾の埋立てを行うとの判断をすることが合理的といえるかどうかは疑問が残るし,調査,検討の結果,やはりフェリーふ頭の整備のため湾を埋め立てざるを得ないとの判断に至ったとしても,埋立場所や埋立の範囲は本件事業計画に比して相当程度縮小したものになると考えられる。以上の点を総合勘案すると,広島県知事が,フェリーふ頭の新設が必要であることを理由として本件埋立免許をすることは,不合理であるといわざるを得ない。
(5) 防災整備
ア 避難地
本件埋立地が災害の際の避難地として利用できる場合があり,また,本件計画道路が災害時の交通ルートとして活用される場合があるとはいえるものの,既にある避難地やこれにつながる交通路と比較して,格段に,避難等の効果が増すとはいえない。また,本件埋立地を避難地として利用するできる場合がある等の点は,山側トンネル案にはない効果とはいえるものの,事業者らも,この点はあくまでも本件埋立による副次的な効果として主張しているものであり,この点を本件埋立の必要性の直接の根拠として主張しているものでもない。
イ 高潮
高潮対策として一定の効果が期待できることは,山側トンネル案にはない効果であるとはいえるが,事業者らは,この点を本件埋立による副次的な効果として主張しているのであり,この点を本件埋立の必要性の直接の根拠として主張しているものでもない。
(6) 下水道整備
拡幅等工事未了区間に下水道を整備する必要性はあり,これを行政課題としてその対策を講じることの公共性も高いといえる。
しかし,事業者ら作成のパンフレットの「現状の道路網では上記下水道の整備はできない」との記載は,推進工法による整備の可能性を当初から排除している点で,誤りというほかないし,推進工法を採ることができない,あるいはこれが困難である可能性もあるが,この点について十分な調査,検討が行われたとは考えにくい。また,事業者らは,下水道整備効果の点を本件埋立による副次的効果として主張しているのであり,この点を本件埋立の必要性の直接の根拠としているものでもない。
3 以上のとおり,事業者らが本件埋立及び架橋を含む本件事業の必要性,公共性の根拠とする各点は,調査,検討が不十分であるか,又は,一定の必要性,合理性は認められたとしても,それのみによって本件埋立それ自体の必要性を肯定することの合理性を欠くものといわざるを得ない。したがって,広島県知事が本件埋立免許をすることは,行訴法37条の4第5項所定の裁量権の範囲を超えた場合に当たるから,主文第2項のとおり,これを差し止めることとする。
判決文
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